2019/11/11 02:11
磐長姫(イワナガヒメ)は、天孫の一神、瓊々杵命(ニニギノミコト)が見初めた妹の木花咲耶姫と共に彼の元に嫁がせようと、父神の大山祇命(オオヤマツミノミコト)が贈った姫である。しかし、瓊々杵命は彼女を返してしまう。父神は、磐長姫の方も同時に娶ったならば風雪に耐える岩のように彼の命は安泰であったはずなのに、短い命で終わるだろうと嘆く。現在の価値観では、妹と共に姉を引き出物として送ることなど当然考えられないが、シンボリズムで捉えると、このエピソードこそ、勾玉の宮における秘儀を見ることができる。
幸運の『コノハナ』、勝利の『ヤマト』には語られなかったもの──『ムスビ』に見られた「退けられた」方の女性性が、『イワナガ』で浮かび上がる。彼女は男性に拒絶され、一体であったはずの妹とも切り離され孤独でいる。心は自然と内省に向かう。静けさと共にある磐長姫の真の美しさと聡明さ。『タマ』の霊力は孤独が導いた安らぎと美に裏付けられている。女性の愛を勝ち取ることは霊力を授かることと言うのは(『拾四・タマ』解説参照)、イワナガの愛に他ならない。